ジェネシアは自社単独で製品開発を行う他、研究機関や大学、一般企業の方々との連携のなかで、新製品の開発を行うことも多い。ここでは、それらにも関連して頻繁に問い合わせのある技術的類例を紹介する。
超小型衛星に搭載して地球観測に供する可視・近赤外望遠鏡について、“ 5つの分解能 ” のすべてを網羅的に達成しようというトレンドが強まってきています。
これらを踏まえ、従来比でコンパクトかつ軽量、大きな画像メモリを具備しながら低消費電力を特徴とする装置として取りまとめ、かつ軌道上エッジコンピューティング(AI含む)まで実施した宇宙望遠鏡を実現しようという試みがますます盛んになっています。
ただし、上記5つの分解能を同時に満たすことは一般論として困難です。
このため、現状では複数の衛星バスにそれぞれ特徴を持った機能を実装し、それらを軌道上で複合的に組み合わせる、いわゆるコンステレーション配置が検討されています。
ジェネシアはとくに空間分解能、波長分解能、輝度分解能に着目した撮像システムの実現に力をいれています(時間分解能は、原理的に宇宙軌道上に配置される衛星機体数に依存)。
カメラ包絡域:1U サイズ
波長:0.48 - 0.62μm(可視パンクロ)
GSD:6.5m, 刈幅:21km(@軌道高度500km)
カメラ包絡域:2Uサイズ
波長:0.9 - 1.7μm(赤外パンクロ)
GSD:15.4m, 刈幅:10km(@軌道高度500km)
カメラ包絡域:3Uサイズ
波長:0.45 - 0.80μm(可視/赤外 パンクロ)
GSD:3 - 5 m, 刈幅:5 - 8.5 km (@軌道高度500km)
(GSDと刈幅は用途により最適化可能)
カメラ包絡域:4Uサイズ
波長:0.45 - 1.0μm
(LCTF:Liquid Crystal Tunable Filter を使うことで軌道上で波長選択可能)
GSD:3 - 5m, 刈幅:5 - 8.5km (@軌道高度500km)
(GSDと刈幅は用途により最適化可能)
カメラ包絡域:4Uサイズ
波長:0.45 - 1.0μm
(LCTF:Liquid Crystal Tunable Filter を使うことで軌道上で波長選択可能)
GSD:3 - 5m, 刈幅:5 - 8.5km (@軌道高度500km)
(GSDと刈幅は用途により最適化可能)
カメラ包絡域:4Uサイズ
波長:0.45 - 1.0μmのうちの4バンド
GSD:3 - 5m, 刈幅:5 - 8.5km (GSDと刈幅は用途により最適化可能)
カメラ包絡域:4Uサイズ
カメラ包絡域:4Uサイズ
カメラ包絡域:4Uサイズ
波長:0.40 – 1.6μm
(LCTF:Liquid Crystal Tunable Filterを使うことで軌道上で波長選択可能)
GSD:59m, 刈幅:97km (@軌道高度500km)
カメラ包絡域:9Uサイズ
波長:0.40 – 1.6μm
(LCTF:Liquid Crystal Tunable Filterを使うことで軌道上で波長選択可能)
GSD:30m, 刈幅:185km (@軌道高度500km)
波長 1.25 - 2.5μm 帯における、赤外多波長イメージングに供する光学設計例です。
LCTF:Liquid Crystal Tunable Filter 等の波長チューナブルフィルタとも組み合わせられます。
本光学系は衛星搭載を前提としているというよりも、むしろドローン搭載を前提としています。
衛星との組み合わせとしては、”軌道面内コンステレーション用” ではなく、”軌道高度方向のコンステレーション” を目論んだ設計です。
全角は80°。歪曲収差量は前提とする赤外検出器(画素ピッチが 15μm VGA)において最大でも1.5画素相当。パーセント・ディストーションで表現して ±0.5%に抑制。こうすることで、複数のドローン画像をパッチ合成する際の “のりしろ” を最小化でき、ドローン撮像の効率を向上させられます。
所望の波長全域に渡る共通像面に対して視野端においてもパンクロマチックなMTFを30%確保できます。
本設計はドローンによる近赤外波長域の撮像分野全般に適用できます。
スナップショット型の多波長イメージング(最大512バンド)にも好適です。
宇宙利用品位のLCTF
LCTF:Liquid Crystal Tunable Filter は、これを構成する複数枚の液晶セルのそれぞれに定められた電圧を加えることで、所望の透過波長を得ることのできる光学分光デバイス。波長選択のために一切の機械的仕組みを必要としません。
透過プロファイル例
LCTFは、液晶セル、偏光板、波長板からなるユニットを、幾重にも積み重ねた構造を持っています。
各ユニットそれぞれの透過率特性は、波長に対して周期的に変化します。各ユニットを透過する波長は印加する電圧で変えることができ、各ユニットを組み合わせたLCTF全体の透過率特性は、各ユニットの透過率特性の積として得られ、狭半値幅バンドパス特性を示します。
液晶セルへの印加電圧を制御することで、LCTFの透過中心波長を任意に制御することができます。
LCTFは、これをレンズ光路に挿入することで多数バンドを活用した柔軟な分光観測が可能となることから装置の小型化、軽量化が容易です。
分光観測時に透過バンド幅が適切でないと広い吸収帯をカバーできなかったり、逆に複数の輝線・吸収線の分離ができなかったりします。あるいはバンド幅が狭すぎると光量不足となり、S/N比が十分に得られない、といった不都合も生じ得ます。ジェネシアでは現在、研究教育機関との連携によりLCTFを構成する部材の組み合わせや電気的な制御を工夫することで、透過中心波長のみならず、透過バンド幅も制御可能とする新タイプのLCTFの開発にも取り組んでいます。これによれば、観測対象物に適合する最適な透過バンド幅、透過波長を宇宙軌道上でソフトウェアにより自由に選択できるようになります。
LCTFはこれが米国で初めて開発されて以来30年以上が経過していますが、国際的にも普及が進んでいるとは言い難い状況です。その最も大きな理由の一つとして、LCTFを通過する光の透過波長がフィルタに入射する光線の傾角に依存することを挙げられます。垂直入射においてはもっとも長波長であり、斜入射であるほど透過波長は短波長側にシフトします。この課題についてジェネシアでは、特別なレンズ光学配置を用いることで当該の悪影響を回避し、視野全面に渡って均一の波長で撮像することができるように整えました。特許取得済のこの技術により、世界的にもジェネシアのみがLCTFを使ったスナップショットセンサを提供できます。
LCTF分光撮像システムは2014年以来、10機種以上が宇宙軌道上で運用されています。
LCTF分光撮像システムには、ドローンへの搭載に特化したシリーズも用意されています。
軌道上からLCTF分光撮像システムにより撮影した画像
KURIHARA et.al., “A High Spatial Resolution Multispectral Sensor on the RISESAT Microsatellite”,
Trans. JSASS Aerospace Tech. Japan Vol. 18, No. 5, pp. 186-191, 2020.
LVF:Linear Variable Filter は、バンドパスフィルタの一種。しかしフィルタの全面に渡って同一の波長透過特性を呈するものではありません。
LVFはフィルタの一辺に沿って透過波長が変わるように構成されています。そのため、光学系と組み合わせてこの方向に像スキャンをかければ、結果として観測物体面の各位置のスペクトルを得られるということになります。この意味において、LVFによる分光撮像は、スリット分光と同様のプッシュブルーム型に分類されるものといえます。ただし、スリット分光の場合にはあくまでも1次元化された物体の像のみを波長分散させるのに対し、LVFでは、すこしずつ波長シフトがかけられた “連続した単色スリット像の列” が2次元スナップショット状に与えられます。それゆえ、仮にLVFを搭載した衛星の姿勢安定性が十分でなかったとしても、連続する各瞬時像の形状的特徴を踏まえたパターン整合を行うことで、それを補償できます。
LVFタイプのハイパーセンサ(多波長分光センサ)は、他の一般の分光デバイス(グレーティングやプリズム、バンドパスフィルタ、ファブリペロなど)とは異なり、分光デバイス挿入のために光学光路をコリメートする必要がなく、通常の撮像光学系とエリアセンサからなるカメラ構成にLVFセンサを組み合わせるだけで済みます。このようにして構築されるセンサは、従来技術であるグレーティングセンサと比較して、観測に用いることのできる赤外光の利用率を1.5倍から2倍以上も向上させることもできます。この点においても光学系の小型化に有利であり、可視域のみならずとりわけ小型衛星に搭載するセンサ候補として非常に有望であると言えます。現在ジェネシアでは、その赤外版を開発中。
LVF型のハイパーセンサをプッシュブーム運用すれば、光利用効率の悪い回折デバイス等に頼ることなく、関心のある波長帯についてストレージする地球観測装置を開発できます。
取得画像の重ね合わせ処理時の、衛星進行方向の重ね合わせ幅を調整すると、波長分解能と空間分解能をトレードオフ調整することもできます。
透過率が高く、高いS/N比を容易に得られるLVFを採用した多波長赤外線センサは、比較的ブロードな吸収帯域幅を持つ鉱物資源探査や、放射輝度の低い海色が特徴となっている海洋資源開発などへの応用が期待されています。